日本の食品業界は現在、成熟期に入っていると言われており、消費量の減少や消費者のニーズ変化に伴い見直しを迫られるフェーズに突入しています。
今後競争が激化していくと言われる食品業界でどう立ち回るべきか?Webマーケティングの視点から食品業界での生き残りに必要な戦略を分析・解説します。
1.食品業界・マーケティングの最新動向
本記事では加工食品などを製造・販売する食品メーカーを総称して「食品業界」と定義し、業界の動向やマーケティングの傾向について分析します。
業界構造の変化
食品業界では経営者の高齢化と後継者不足が問題視されています。食品業界は小規模事業者が多く、それゆえ事業承継にあたり家族間での引継ぎが行われるのが一般的でした。しかし近年は少子化や価値観の変化により、事業承継をせず経営者が引退したタイミングで廃業するケースが増加しています。
上記のグラフをご覧になると分かるように、食品業界における中小企業経営者の約30%が70歳以上、60歳以上まで含めると半数以上に上ります。経営者の高齢化が進む一方、事業承継について「今は考えていない」、「承継するつもりはない」と回答した事業者の割合は約50%。
高齢化が進む中でいかにして事業を継続するかが喫緊の課題になっていると言えます。実際、食品産業の企業数は2019年~2023年の4年間で約10%減少しており、今後もこの傾向が続くでしょう。
また食品業界では低賃金と高い欠員率により、安定した人材確保が困難な状況が続いています。国内全体で人口減少が進む現在、継続的な労働力と売上を確保するための新たな戦略が必要とされています。
付加価値と3大志向
人員不足と消費者のニーズ変容により、近年では「ただ安い商品」ではなく「付加価値の高い商品」を作る重要性が高まっています。
インターネットの普及などの要因により消費者の嗜好はかつてなく多様化しており、従来の商品展開・マーケティングで十分な売上を出すのは非常に困難です。さまざまな付加価値をつけて消費者を満足させる商品を提供することが求められます。
日本政策金融公庫の調査によれば、近年特に注目を集めている「食の志向」は健康志向・経済性志向・簡便化志向の3つ。それぞれの志向について詳しく見ていきましょう。
健康志向(ヘルスパフォーマンス=ヘルパ)
特にコロナ禍以降、消費者の間では食への健康意識が徐々に高まっています。リモートワークの普及により、自宅での健康維持が重要視されるようになったことなどが影響していると考えられます。
オートミールやナッツ、ハイカカオチョコレートといった健康食材が注目されるほか、「機能性表示食品」など国から認証を受けた健康食品の売上も増加しています。
健康食品市場とECにおけるマーケティング戦略については健康食品ECを成功させるマーケティング戦略7選|市場動向・成功事例などで解説しています。こちらも併せてご参照ください。
簡便化志向(タイムパフォーマンス=タイパ)
利便性、手軽さを重要視する消費者も近年増加しています。夫婦のみの世帯や単身世帯が増加したことにより、外食と家で料理を作る「内食」が減少し、冷凍・加工食品や出来合いのお惣菜を買って食べる「中食」の需要が増加しています。
タイパ需要によって売上を伸長させた企業の代表例は冷凍宅配食品大手のnoshでしょう。noshの成功ポイントについては成功事例の章で詳しく解説します。
経済性志向(コストパフォーマンス=コスパ)
経済不安からコスパの良い食生活を求める消費者が多い一方、付加価値として少し質の良いものを選ぶ「プチ高級志向」も一定の支持を獲得しています。
原材料や素材にこだわった「プレミアム」「大人の」といった切り口で多くのヒット商品が誕生しました。また、定番商品においても高級感のあるパッケージに変更する、ハイエンドなラインナップを増やすなどの動きもあります。
価格の安さのみにこだわらず、質の良さやイメージに対して価格が見合っているかが重要なポイントになると言えるでしょう。
2.食品業界におけるマーケティング戦略のポイント
業界を問わず、マーケティングでは事前に戦略を立て、計画的に行動することが重要です。
ここでは、特に食品関連のビジネスにおけるマーケティング実施時の注意点について解説します。
市場調査とニーズ分析
自社が保有するデータや市場調査などを通して、まず市場ニーズやトレンド分析を行います。
例えば、SNSやレビューサイトなどのデータ分析を通じて消費者の意見を直接知ることで、ニーズを把握して商品の改善点やアイデアが生まれることもあるでしょう。「どこで」「誰が」「どんなものを」「なんの目的で」買うか詳細に分析することで、市場ニーズの把握やトレンドの分析に役立ちます。
必要に応じてアンケート調査やインタビュー調査を行うのも一つの手です。
競合分析
市場内の競合他社の強みや弱みを理解して顧客に対して他社にはない独自のアプローチや体験を提供することで、ブランドイメージを高め、市場でのインパクトを強めることができます。
3C分析
競合分析におすすめなのは「3C分析」と呼ばれる手法です。
業界環境の構成要素である「Customer」「Company」「Competitor」3つのCを分析することで他社との相違点を明確にします。
Customer:市場規模、地域構成、市場の成長性、購買決定プロセス等
Company:市場シェア、収益性、ブランドイメージ、技術力や人的支援等
Competitor:競合数、参入障壁、競合他社の戦略、各社の強み・弱み等
顧客のセグメントとペルソナ設定
調査を通して市場細分化(セグメンテーション)し、その中からターゲットとすべき顧客を特定します。
食品はどんな人にとっても必要な要素であり、業界全体の傾向から特定のターゲットを類推することはできません。自社商品が持つ特徴からターゲットを割り出し、積極的に対象を絞っていくことが大切です。
ターゲット層が特定できたらその人物像をペルソナとして設定します。細分化した市場の中からより具体的なターゲットを特定することで、もっとも効果的なアプローチ方法の考案が可能になるでしょう。
ブランディング
食品業界は競争が激しいレッドオーシャンであり、消費者には無数の選択肢があります。事実として「美味しい商品」を提供するだけではなく、消費者が満足するような「美味しい体験」を提供することが重要です。つまり、マーケティング戦略においては商品の質だけでなくブランディングも重要な要素となります。
消費者が商品を使用することで、その商品に対するイメージが形成され、ブランドが確立されていきます。消費者の中で良い印象を持たれると商品ブランドのファンが増え、たとえ他社の商品よりも価格が高くても自社の商品が選ばれやすくなります。
ブランディングにより地道にファンを増やすことで、短期的な売上改善ばかりでなくロングセラーにつながる可能性も高まるでしょう。
店舗とオンラインの連携
オンライン・オフライン問わずあらゆるチャネルの施策を融合させる“OMOマーケティング”の重要性が高まっています。
食品業界は冷蔵保存が必要な品物が多い、直接商品を見て決めたいと考える消費者が多いという性質上、EC化率が低い傾向にあります。そのため、ほとんどの企業がECと店舗を並行で展開しているのが現状です。
今後新たにECを立ち上げる場合であっても、限られたカテゴリ(例えばサプリなど定期購入と相性が良い商品)でなければ店舗とオンライン両方で商品を出すのが定石でしょう。
店舗・ECで商品を展開する場合、それぞれのチャネルで得たデータや情報をいかに共有できるかが成功の鍵を握ります。オンラインで取得した顧客データを商品開発に生かす、店舗とECでマーケティング戦略を一貫させるなどの施策を行うことが推奨されます。
まずは集客施策から
どんな業態においても、マーケティングを実施する際はまず集客の促進から行うのが鉄板の戦略です。特に顧客の購入単価が低く検討時間が短い食品業界では、商品の知名度と好感度を上げて手に取ってもらうための施策が重要になります。
入念なブランディングを行い、ブランドコンセプトに合ったファンを増やすのが長期的な売上アップのポイントです。
3.食品業界におけるマーケティング施策7選
食品業界におけるマーケティング施策は「集客」「追客」に大別されます。
Webマーケティングで効率よく売上を出すには、新規顧客を集める「集客」と既存顧客を購入につなげる「追客」二つの施策をバランスよく計画的に進めるのがポイントです。
集客施策
食品は基本的に1回の購入単価が低いため、知名度を上げて手に取ってくれる新規顧客を効率的に増やしていくマーケティング、すなわち集客施策が大切になります。
特に新規で事業を始める場合は集客施策に注力すべきでしょう。
WEB広告
検索画面に表示するリスティング広告などで商品に関心を持つユーザを増やします。
人気商品の入れ替わりが激しい食品業界では短期集中的な広告戦略に依存しがちですが、知名度・信頼度がないまま広告で一時的に購入数が増えても長期的な売上改善にはつながりません。
広告施策の一環として、時には企業の知名度や信頼性を向上させて顧客のロイヤリティを高めるための中長期的な戦略が求められることもあります。
SEOコンテンツ
オウンドメディアなどを通じて情報発信を行い、検索流入を増やします。認知度向上や信頼感の醸成を狙いつつ、自然に購買行動を促したいときに役立つWebマーケティング戦略だと言えるでしょう。
商品を使ったレシピなど消費者にとって有益な情報発信をすることで、ユーザの課題解決を促します。商品を認知していない消費者層にも認知してもらえる機会を作り、潜在顧客・見込み顧客へとアプローチ範囲を広げることができます。
また発信したコンテンツは蓄積されていくため、一度投稿すれば資産として蓄積されるのもメリットです。
SNS
主なユーザ層 | 特徴 | |
---|---|---|
X(旧:Twitter) | 10代~40代 | フォロワー経由での二次拡散性が高い 情報拡散のスピードが早い |
10代~50代 女性が多い | 画像・動画がメイン 視覚で訴求したいコンテンツに最適 | |
30代~50代 | 実名登録制でビジネス向き 広告>アカウントでの発信 | |
TikTok | 10代~30代 | ショート動画での拡散 若年層メインだが中高年もニーズあり |
SNSは消費者と直接コミュニケーションを取りながら知名度を上げることができる施策です。商品単価が低く、顧客の購入ハードルが低い食品業界は、すぐに情報を拡散するSNSと相性が良いと言えるでしょう。
フォロワー数が少なく、知名度が低い場合は、SNS広告などを活用して露出を増やす戦略が必要です。しかし、一度フォロワーを獲得すれば、情報の拡散にはコストがかからなくなります。知名度が向上すれば、高い費用対効果が期待できるでしょう。
追客施策
新規顧客の重要性が高い食品業界ですが、ECで展開する場合は特に既存顧客を継続購入に促す施策が重要になってきます。
ロイヤリティを向上させて顧客の心を掴むには、一度商品を購入した顧客から情報を得てマーケティング施策に生かすことが大切です。
満足度調査
満足度調査では消費者から商品について直接フィードバックをもらい、商品やマーケティング施策に関する改善案を探ります。既存顧客の満足度を維持・向上させて継続購入につなげるだけでなく、新規顧客獲得に結びつくヒントを得る機会になります。
調査を行う際には目的を細分化して明確にすることがポイントです。「商品の強みを改善するため」「ユーザの特徴を把握するため」など、あらかじめ明瞭な目的を社員間で共有することにより、効果的な調査が期待できます。
データベースの構築
ロイヤリティを高めるためには、顧客情報のデータベース化も不可欠です。
店舗・ECなどチャネルを問わず顧客データを一元管理し、属性やニーズなどでセグメンテーションしたうえで戦略を改善していくなどの施策が有効です。
EC展開を含む場合は既存顧客向けにメルマガを配信するなど、CRM施策につなげることでより高い効果が見込めます。また、自社商品に興味を持つユーザの情報を的確に把握することで新規顧客向けのマーケティング戦略にも生かすことができるでしょう。
リピーター特典
顧客ロイヤリティを向上させるための施策として、会員限定プログラムを導入して複数回の購入に対してリピーター特典を提供することが有効です。
具体的には、以下のような特典を検討してみると良いでしょう。
- 無料プレゼントキャンペーン
- ポイントプログラム
- 割引クーポンの配布、特別セール
顧客サービスとアフターケア
特に食品業界は安全性に厳格です。食中毒やアレルギーなどを引き起こすリスクがあると判断されれば購入されなくなってしまうため、お客様サポートセンターなどを設置して商品の安全性・信頼性をアピールしましょう。
4.食品マーケティングにおける戦略改善のコツ
マーケティングを実施するうえでは計画的に施策を進めるだけでなく、改善点を発見してPDCAを回すことが重要になります。
数値設定・測定
マーケティングにおいて設定すべき基本的な数値は
- KGI:最終的な目標
- KPI:中間目標(マイルストーン)
の2つです。
例えば、「年間売上高15%増」をKGIに設定し、KPIとして「1ヶ月間でCPA(顧客獲得単価)を30%上げる」「カゴ落ち率を50%以下にする」などの設定を行うとよいでしょう。
設定する数値に関しては店舗・ECでやや異なる点はありますが、購入あたりの単価が低い食品では「複数回購入してもらった回数」を重要視する必要があることは共通しています。そのためLTV(ライフタイムバリュー・顧客生涯価値)を目安に数値を設定することが推奨されます。Web広告の場合はFR(フリークエンシ―・接触頻度)を基準にすることが一般的です。
定期的にKPIを評価・分析することにより、施策が市場に通用しているか、問題点はないかなどを把握することができるでしょう。
戦略の評価
施策の実行後は、マーケティング指標の分析結果に基づき、まずは戦略の評価を行います。仮にKGIとKPIの双方が達成された場合、戦略に問題はないと判断できます。
また、KGIが未達成でKPIが達成していた場合はKPIの数値改善や新しいKPIの設定を行う必要があります。KGIもKPIも達成できなかった場合は戦略に問題があると考えられるため、KGIやKPIを再考すべきでしょう。
数値をもとに改善のPDCAを回すことで、より最適なマーケティングが可能になります。
競合他社のモニタリング
戦略の改善を行うためには、競合他社のモニタリングやフィードバックも重要です。
マーケティング戦略に基づいて施策を実施している間にも、競合他社は次々と新しい戦略を打ち立てて実行しています。後れを取らず先行利益を獲得するにはモニタリングを続けて自社に生かす取り組みが重要です。
モニタリングに際しては以下の項目を定期的にチェックするようにしましょう。
- LP、コーポレートサイト
- リスティング広告
- SNS
- オウンドメディア、出版物
モニタリングを継続していると競合の戦略などから市場の変化を見いだせることがあります。市場動向に応じて戦略を見直し、競合分析を通じて自社の商品強化や他社との差別化を図ることが生き残りには不可欠だと言えるでしょう。
5.食品マーケティングの成功事例
食品業界は競合が非常に多く、食材や味付けなど「商品の質」だけでは競合他社と差別化して成功を収めるのは困難です。
広く浅くターゲティングするのではなく、顧客層を絞り特定のファンを増やす動きが最終的な売上拡大につながります。
食品マーケティングにおける成功事例を3社、詳細にご紹介します。
nosh:簡便化志向の若者向けに冷凍宅配サービスを展開
ミールキット、宅配弁当の市場はリピート率が高いためサブスクリプションやECのビジネスモデルと相性が良く、追客施策を行いやすいのが特徴です。Nosh(ナッシュ)は手軽にヘルシーな食事を摂りたい「簡便化志向」を持つ若者をターゲットにサブスク型の冷凍弁当宅配サービスを展開し、成功を収めた企業です。サービス開始から約6年間で累計8,000万食を売り上げる快進撃を見せており、2024年現在は株式上場を視野に入れて事業拡大を続けています。
noshは大規模なWeb広告で知名度を上げる一方、人気YouTuberと多数コラボしてリーチ層を拡大しました。Web広告で目にしただけでは購入まで至らない顧客であっても、お気に入りのYouTuberが紹介していれば興味を持つ可能性が高まります。
サブスク型の販売形態は他形態と比べると継続購入する割合が高いため、商品開発で既存顧客の満足度を維持しながらマーケティング施策では集客に力を入れるのが理想的です。noshはオンラインでの正攻法を押さえたマーケティングの成功事例だと言えるでしょう。
岩下の新生姜:SNSマーケティングでロイヤリティ向上
岩下食品の看板商品「岩下の新生姜」は1987年から35年以上続くロングセラーですが、漬物市場の縮小などの要因により一時は売上がピーク時の3分の1まで低迷したそう。
業績回復のきっかけになったのが社長のTwitter(現:X)アカウント開設です。企業によるSNSアカウント開設がまだ一般的でなかった2010年から実名で活動し、新生姜に関する全てのポストに目を通して「いいね」する独自の運用が話題になりました。
SNSマーケティングの面でコストパフォーマンスを重視せず、直接顧客の声を聞くことでレシピなどの有益な情報を提供した結果、顧客のロイヤリティを向上させることに成功しました。
株式会社BAKE:オウンドメディアでファン増加
駅ナカ店舗を中心にしてPRESS BUTTER SAND(プレスバターサンド)などのスイーツを販売する株式会社BAKE。「チーズタルト専門店ではチーズタルトのみを販売する」といったように、「1ブランド1プロダクト」の方針でコストを抑えながらも高品質な商品を提供しています。
同社はかつて店舗を中心に商品を販売していましたが、コロナ禍に売上が激減。集客改善のためブランドのリニューアルを行いました。
リニューアルに際し、同社はオウンドメディア「THE BAKE MAGAZINE」をリニューアル。「おいしいは、しあわせにBAKE(バケ)る。そこには、ストーリーがある。」をコンセプトに、自社やお菓子に関する情報に留まらず、主に「食」に関連したユニークな企業、業界を牽引するリーダーへのインタビューなどを幅広く発信しています。
オウンドメディアでの発信を通じて自社のファンを増やし、ブランドコンセプトを補強することに成功している事例です。
6.まとめ
食品業界は顧客のニーズ多様化に合わせてターゲットを明確にしたマーケティングが必要となります。
競争が激化する今後の食品業界では、知名度と顧客のロイヤリティを上げるための施策がさらに重要になってくると言えるでしょう。自社商品に興味を持ちそうな顧客に適切なマーケティングを展開出来れば売上アップが見えてきます。
食品業界のマーケティング施策にお悩みのWEB担当者様はぜひECマーケティングにご相談ください。