1.健康食品ECの市場動向と最新トレンド
健康食品とは「健康に良いとされる食品全般」を指します。法律上の定義はないため、健康維持を目的とした栄養・健康ドリンクやサプリメントなどを総称して「健康食品」と呼ぶのが一般的です。
健康食品業界は通常の食品業界と大きく傾向が異なります。大まかな特徴と最新の動向を知っておきましょう。
健康食品業界の特徴
健康食品は商品の消費サイクルが比較的短く、長期間にわたってリピートされやすいという特長があり、また利益率も高い傾向です。
一般的に食品業界はEC展開が難しいとされていますが、冷蔵保存が不要で顧客のリピート率が高い健康食品は例外的にECとの相性が良いと言えます。そのため最近では健康食品の定期購入サービスを提供するメーカーが増加しています。
しかし近年は競合の増加やトレンド変化の速さから、人気商品の入れ替わりが一層激しくなっています。利益が見込める一方、長期的な売上維持は難しく不安定さのある市場です。
健康食品ECの市場規模
矢野経済研究所が発表した国内の健康食品市場調査によると、2023年度の市場規模は8,995億円(前年比1.5%増加)を見込んでおり、2024年度は前年度を上回る成長を続けると予測されています。
コロナ禍で個人の健康意識が高まり、自身の健康に積極的に取り組もうとする人が増えたことが大きな要因だと考えられます。
またEC市場においては健康食品のメイン層である40代以上の顧客のリテラシーが向上し、インターネットを通じて手軽に商品を入手できるようになったため、健康食品の取引が増加しています。
今後も健康食品全体、ECともにしばらくは引き続き市場拡大が続く見通しです。
保健機能食品制度が見直しへ?
健康食品業界の動向を語るうえで非常に重要なトピックとなっている「保健機能食品」。国が定めた安全性と効果に関する基準を満たす商品の総称であり、サプリメントや栄養ドリンクだけでなく、乳製品や飲料などさまざまな食品に使用されています。
保健機能食品は認可基準などにより大きく3つに分けられます。
特徴 | 認可基準 | 認可事業者数 | |
栄養機能食品 | 国が定めた定型文で栄養成分の機能表示ができる | 届出の必要なし | – |
機能性表示食品 | 事業者の責任で保険の機能表示ができる | 消費者庁へ資料届出 ヒト試験は必須ではない | 1,671社 |
特定保健用食品(トクホ) | 保険の機能が国(消費者庁)に認められている 専用のマークあり | 複数団体の審査・審議が必要 ヒト試験が必須で認可に数年かかるケースも | 124社 |
機能性表示食品はトクホよりも認可にかかるコストが低いため、健康志向の消費者に対して購入を促すためのマーケティング手法として活用されている側面がありました。しかし2024年に発生した小林製薬株式会社の紅麹関連製品の回収騒動により、機能性表示食品の妥当性を見直す動きが広がっています。
紅麹事件以降、消費者庁では機能性表示食品の在り方を見直すための検討会を複数回開催しており、今後法令改正等により認可ハードルが高くなる可能性もあります。今後の動向次第では既存商品の売上・CVRに影響をもたらすリスクに備えて、別施策を講じる必要があるかもしれません。
2.【2024年版】健康食品EC売上ランキング
ここではECサイトの販売を含む通販全体の売上ランキングを示します。
2024年までの数年間1~3位の企業は変動がありませんが、4位以降は頻繁に入れ替わっており、安定した収益獲得の難しさが伺えます。各社の売上推移とマーケティングにおける取組を概観していきましょう。
1位:サントリーウエルネス:約1,000億円
サプリメントではヒザ関節ケアの機能性表示食品「ロコモア」などがヒットしているサントリーウエルネスは2023年12月期に1162億3400万円の売上高を記録。売上高、営業利益ともに増加傾向にあり、業界内での地位をさらに上げています。
2023年には会員アプリ「サントリーウエルネスクラブ」のサービス開始、ECサイトのリニューアルなどを実施。健康行動アプリ「Comado(コマド)」と連動し、歩数や健康行動に応じて貯まったポイントをECサイトの割引に使用できるなど、既存顧客の満足度とリピーター率を高めるための戦略をさらに強化しています。
2位:DHC:約529億円
化粧品・健康食品を中心に通販事業を展開するDHC。2023年7月期の売上高は約528億で、前年比2.7%増の成長を見せています。
DHCは2023年にオリックスグループによる買収が決定。経営者の交代によってマーケティング戦略にどのような変化が見られるのか注目です。
3位:世田谷自然食品:約300億円
「青汁」を健康食品としてブレイクさせ、新聞など紙媒体での広告展開により売上を伸ばしてきた世田谷自然食品は、近年顧客データの分析に力を入れています。
そのほか、2023年にはこれまで自社ECでのみ取り扱っていた商品を楽天・Amazonで展開するなど、オンラインへの対応が徐々に進んでいます。
4位:ファンケル:約200億円
ファンケルではコロナ禍で店舗売り上げが激減したことを機に通販事業へ注力する構造改革を実行。2022年には約30億円を投資して新たな基幹システムを導入し、顧客データベース分析からニーズに沿った高度なCRMを提供することに成功しています。
40代~50代女性から手厚い支持を受けるブランドですが、今後は55~64歳の「プレシニア層」を新たなターゲットとして戦略を策定する予定です。
5位:やずや:約170億円
福岡・博多の老舗通販企業として知られるやずやは電話・手紙を通じたオフラインでのダイレクトマーケティングで売上を伸ばしてきた企業です。
アナログ手法で顧客からの信頼を獲得してきた企業ですが、同時に近年は通販事業を円滑に行うためのCRM・データマーケティングを積極的に行ってきました。現在は同社が独自に開発した基幹システム『CoreMind CRM』を他企業向けに提供しています。
3.健康食品ECに必要なマーケティング戦略7選
競合の多い健康食品業界で成功するには綿密なマーケティング戦略立案が必要です。
自社商品のニーズとマーケティングの目標を踏まえ、どの戦略を選択するか見極めましょう。
SNS
SNS | 主なユーザ層 | 特徴 |
---|---|---|
X(旧:Twitter) | 10代~40代 | フォロワー経由での二次拡散性が高い 情報拡散のスピードが早い |
10代~50代 女性が多い | 画像・動画がメイン 視覚で訴求したいコンテンツに最適 | |
30代~50代 | 実名登録制でビジネス向き 広告>アカウントでの発信 | |
TikTok | 10代~30代 | ショート動画での拡散 若年層メインだが中高年もニーズあり |
SNSを有効活用した情報発信や顧客とのコミュニケーションは健康食品のマーケティングに非常に有効です。
若者層へのアピールにはもちろん、現在では年齢層が高めのユーザもSNSの利用率が上がっています。従来の電話・手紙による顧客とのコミュニケーションをSNSで行うことにより、ロイヤリティの向上が期待できます。
LP制作
ECの商品ページとは別に購入までの導線が1ページに集約されたLP(ランディングページ)を制作することでより効果的に集客が可能です。
LPは顧客が購入したくなるような情報を効果的に集約することが重要です。具体的には以下のようなコンテンツを含むとよいでしょう。
- お客様満足度や累計販売数などの客観的なデータ掲載
- 「一週間お試し」「初回限定特典」などのトライアル
- 商品を試した体験者の声や購入者の声(口コミ)
ただし、顧客に効果・価格を誤認させるような内容にならないよう注意しましょう。健康食品業界で特に注意すべき景品表示法、薬機法については後述します。
リスティング広告
LPで効率的に集客するには、検索で興味を持ったユーザをLPに誘導し、購入に結び付ける役割を持つ「リスティング広告」を配信する施策が有効です。健康食品市場は入札単価が高騰しやすい激戦区であるため、広告費が無駄にならないよう1枚のページでユーザの心を掴むLPの制作が必須です。ターゲット別LPによる検証や、複数パターンでABテストとPDCAを回すなどの施策を行って当然の世界でしょう。
リスティング広告の設定は、キャンペーン構造、予算配分、オプション機能のフル活用、魅力的かつ競合と差別化する文言設定などが効果に影響します。そのためマーケティング担当者は高いスキルと経験を求められます。
ユーザビリティ改善
自社ECを展開している企業は初めて訪問したユーザでも迷わず商品を見つけて、購入手続きがスムーズに完了できるUI設計にすることが非常に重要です。またECサイトのデザインはターゲットユーザの性別や年齢層に合わせた世界観を備えていることも重要です。
EC内の導線が分かりづらいサイトではユーザの離脱率が上がります。操作においてユーザに考えさせてしまうサイトは残念なECサイトといえます。UI・UXにおける課題が多いサイトであれば、いっそのことサイトリニューアルを行うのも一つの手です。
オウンドメディア
健康食品は企業・商品への信頼度が重要視されます。特に近年では紅麹食品の回収騒動があり、健康食品に対して抵抗感を持つ人も少なくありません。
信頼性を高め、購入までのハードルを下げるという意味では、オウンドメディアの運営も有効な戦略となります。商品の開発ストーリーを発信する、お役立ち情報をSEOコンテンツとして発信するなどの戦略が考えられるでしょう。
商品に関するあらゆるキーワードで網を張って自然検索で経由新規顧客との接点を集め、やがて購入に転じた顧客とのロイヤリティを高める効果も期待できます。
CRM
CRMは満足度とロイヤリティの向上を目指して顧客との関係性を管理し、リピーター増加とLTVの最大化を図る手法です。
継続購入が前提となる健康食品ECでは特に重要な戦略になります。CRMを通じて顧客の状態を把握し、それに応じたアプローチをすることでリピート率を向上させることが可能です。
CRMの取り組みが進んでいる企業では、LTVから逆算した集客の適正価格を意識して広告運用に反映しています。1件何円で顧客を獲得すれば採算が合うのか把握できるのもCRMのメリットといえるでしょう。
メルマガ
定期購入がメインとなる健康食品ECではメールを通じたマーケティングも重要なコミュニケーションツールになります。
積極的に新商品の発売情報をお知らせしたり、お得なセール情報を届けたりすることでリピートやアップセルにつなげることができます。「購入者限定割引」や「あなただけにお知らせする」といった限定感や特別感を抱かせるアプローチも有効です。
4.健康食品ECで成功するためのポイント
会員サービス・定期購入制度
健康食品のボリュームゾーンは50代以上の女性で、会員特典やポイント制度などを特に重視する傾向にあります。初回購入のハードルを超えるために、会員登録による初回割引やトライアル商品の販売などを行うのが有効です。
また既存顧客に対しては定期便やポイント制度を導入することで、リピート率を向上させることができます。
送料・手数料を無料にする
購入のハードルを下げるためには、送料や手数料を無料にするのが効果的です。例えば、500円の商品に500円の送料がかかると購入をためらう顧客が1,000円で送料無料になると購入を決断するといった現象は往々にして起こりえます。
特に健康食品はリピート率の高さが重要になるため、毎回送料や手数料が発生することに抵抗を感じて購入をキャンセルした場合の損失はかなり大きくなります。定期購入を契約したユーザは送料無料にする、手数料がかからないような価格設定にするなどの工夫が必要です。
法律を遵守する
健康問題を扱う食品分野というだけあり、コンテンツ発信においては法令遵守の意識が非常に重要です。
十分な知識がないままECサイト等で誤った情報を掲載した場合、検索順位にペナルティが与えられたり法令違反として罰金が科せられたりする可能性もあります。マーケティングに際しては以下2つの法令を常に意識するようにしましょう。
景品表示法
品質、価格などについて虚偽の記載を行い、競争事業者のものより著しく優良であると誤認させる表示は景品表示法違反として処罰の対象になります。
違反した場合、課徴金制度(総売り上げの3%)や事業者名の公表措置命令・警告・指示 (消費者庁のWebページでの公開)などの措置がとられるため、事業に大きな悪影響を及ぼします。
上記は実際に措置命令が出された機能性表示食品のサイトに掲載されていた表示です。
本件商品に含まれる成分の作用により、誰でも、容易に、外見上、身体の変化を認識できるまでの痩身効果を得られることについて、消費者庁又は国が認めているかのように示す表示をしていた。
消費者庁「株式会社アリュールに対する景品表示法に基づく措置命令について」
このように、成分の作用を誤認させるような表示、および「消費者庁が効果を認めた」などの虚偽記載は景品表示法違反と見なされ、措置命令などの処分対象となります。
薬機法
景品表示法はあらゆる商品の販売で留意しなければならない法律ですが、健康食品に関しては「薬機法」についても注意が必要です。
薬機法では医薬品的な効果・使い方を示すこと、医薬品にしか使えない原料を許可なく使用することが禁止されています。「病気を治す」などの直接的な表現のみならず、「おなかの調子を良くする」「糖の吸収を穏やかにする」など医療的効果を示唆する表現も処罰の対象となります。
商品そのものの誤認表示はもちろん、商品と直接関係ない部分でのコンテンツ発信にも注意が必要です。日本では2017年にGoogleで「健康アップデート」と呼ばれる大規模アップデートがありました。これは検索エンジンにおける医療健康分野の信頼性を確保するため取り組みであり、医療機関や医療従事者が提供するコンテンツが上位に表示されやすいアルゴリズムに変更されました。
健康に関するコンテンツを発信する際は医師監修をつけないとSEO的な評価が下がるため、注意が必要です。
ECマーケティング株式会社は、「確実に集客につながるコンテンツマーケティング」を提供しています。
ただ記事を納品するだけではなく、SEO観点を押さえたコンテンツで集客効果の最大化を実現します。
豊富なオプションプランがあり、御社に合わせたご提案が可能です。ぜひまずはお問い合わせください。業界に合わせてコンサルタント・編集者をアサインさせていただきます。
開発ストーリーを発信する
自社で商品開発~製造~流通までをワンストップで取り扱うD2C事業においては特に、ブランドのこだわりや信頼をアピールする開発ストーリーの提示が有効な戦略になります。
開発ストーリーを発信する際はオウンドメディア、動画サイト等を利用すると効果的です。明確なビジョンや開発ストーリーを持った商品であることを積極的に発信すれば共感を呼び、ファンになってくれる人が増えるでしょう。
ユーザの声を反映させる
健康食品はインターネットの発展以前から消費者との距離が近いマーケティングを行う業界でした。現在ではインターネットを通じてヒアリングや口コミの収集を行い、顧客の声を商品やサービスに反映させ、先述したCRM施策を戦略に組み込むことが必要不可欠になっています。
顧客の生の声を集めることで、商品の信頼性を向上させることができます。また購入者からのレビューや評価をサイトに掲載して購入の決め手となる情報を提供することにより、新規顧客の獲得やリピート購入を促進できるでしょう。
5.健康食品ECの成功事例
FUJIMI:若者向けに特化したブランディングで成功
FUJIMIは独自分析で一人ひとりに合ったサプリメントを提供するビューティケアブランド。近年、若者層を中心にライフスタイルや身体の状態に合わせて最適なサプリメントを選んでくれる「パーソナライズサプリ」が流行しており、FUJIMIはその成功例の一つと言えます。
11種類の中から自分の肌に最適なサプリメントを選べるシステムは、「何を選べばよいかわからない」というターゲットユーザーの悩みを解消することを目的としており、この的確なマーケティング人気の要因だと推察されます。
また同ブランドでは充実したオンラインでのフォローアップ施策も高い評価を集めています。50万人の肌診断データベースを蓄積しており、定期購入を選択した顧客にLINEで「お肌のチェックシート」を送付し、専任コンシェルジュからリッチなフィードバックをもらえるのが好評です。
あえて健康食品のメイン層ではない若者世代にターゲットを絞ってブランディングを行い、成功を収めた事例です。
ハーバー研究所:オウンドメディアリニューアルで新規顧客開拓
ハーバー研究所は「無添加主義」を理念に美容・ヘルスケア商品を展開しており、2023年3月期の通販事業は71億3200万円。ECの売り上げはそのうち半分強ほどを占めています。
同社は化粧品を主力商品として取り扱ってきましたが2021年以降は特定保健用食品(トクホ)飲料「オリゴワン」など健康食品分野に注力しており、売り上げは堅調に伸び続けています。
2023年10月には自社のオウンドメディアをリニューアルし、オウンドメディア経由の売り上げが増加。またLINEの「友だち」は約2,621万人で、顧客との接点の一つとしても活用しています。
新たな販路開拓戦略としてWebマーケティングを効果的に活用している一例だと言えるでしょう。
タマチャンショップ:顧客を「ファン化」するSNS施策
タマチャンショップはスーパーフードやオリジナル健康食品を販売するECサイトを中心に事業を展開している企業です。
当初はモール依存で販売を行っていましたが、ブランド特有の世界観を表現してニッチな市場でのリピーターを増やすために自社ECを強化。「ニッポンのおかあちゃんになりたい!」というコンセプトのもとInstagramなどのSNSで発信を続けています。自社ECはこの事例のようにブランドの表現を効果的に行いたい場合にも適しています。
タマチャンショップの公式SNSアカウントでは購入した商品の投稿に1件ずつ「いいね」する、DMを送るなどのこまめな気遣いで顧客をファン化し、ロイヤリティを高めています。
また、同社はユーザ同士のコミュニケーションを行うための交流サイト「タマリバ」の開設や公式LINEの強化など、既存顧客をリピートに持ち込むCRM戦略にも力を入れています。
ていねい通販:定期購入促進の密着型CRMを展開
「すっぽん小町」などの健康食品を中心に販売する「ていねい通販」は手紙・電話が主流だった時代から通販事業を展開、現在はオンラインを活用した戦略を積極的に推し進めています。
従来のチャネルに加え、オンラインではメール、チャット、LINEなど多数の媒体で顧客とのコミュニケーションを積極的に取ることにより、「すっぽん小町」の定期購入継続率は90%以上という数値を維持しています。
健康食品業界では、顧客との信頼関係を醸成するために手紙・電話などの形で直接コミュニケーションを取るダイレクトマーケティングが一般的な戦略とされてきました。顧客との直接的な交流が重視されている点は現代においても変わりませんが、データを通じた分析を取り入れて効率的にマーケティングに取り入れる姿勢が今後の生き残りには重要です。
6.まとめ
健康食品はリピート率・定期購入の割合が高いため、ECとの相性が良い業界です。近年は健康志向の高まりなどの要因によって市場の拡大が続いているため、効果的なマーケティングを実施することで、売上の増加が見込まれます。
効率的に売上をアップさせるには新規顧客の獲得と既存顧客へのフォローアップをバランスよく行うことが重要です。データ分析を通じて顧客のニーズを正確に把握し、それに応じたマーケティング戦略を実施することが成功のポイントとなります。