
伊藤 肇
【Webly編集部】執行役員 兼 シニアコンサルタント
2000年からデジタルマーケティング業界で、大手企業のウェブマーケティングを支援。Googleアナリティクスが生まれる前、2002年にサーバーの生ログを集計して「アクセスログ解析」をレポート。2006年にサイバーエージェント、アルベルト(現アクセンチュア併合)を含め業界をリードする各社を招待して「コンバージョンアップサミット」を主催。以降、800プロジェクトのサイトユーザビリティ改善に携わる。
2025年11月5日REAL VALUE(リアルバリュー)にプレゼンターとして出演。堀江貴文氏のYouTube ホリエモンチャンネルにて公開中。
突然ですが、御社のWebサイトは、誰に向けて設計されていますか?
おそらく「見込み顧客」「サイト訪問者」「意思決定者」向け——つまり人間、ユーザーに向けて最適化されているはずです。
20年以上Webサイトのユーザビリティ改善に携わってきた筆者も、長くその前提で設計・改善を行ってきました。
しかし今、その前提が変わりつつあります。
AIエージェントが普及するにつれ、サービスの比較・選定・推薦という意思決定プロセスの一部を、人間ではなくAIが担う場面が増えてきました。「ChatGPTに聞いたら◯◯社を勧められた」という体験を、ビジネスの現場でも耳にする機会が増えています。
このとき、AIはあなたのサイトを「どのように読んでいるか」、ご存じでしょうか。そして、AIに正しく評価・推薦されるためには、サイトの何を変えればよいのでしょうか。
本稿では、サイトユーザビリティ設計20年の経験をもとに、筆者が提唱する新概念「AI-UX(AIユーザビリティ)」の定義と、Human-UXを損なわずにAI-UXを高めるための実装アプローチを解説します。
この記事を読む5つのメリット
1. AIエージェントに評価・推薦されるための新しいUI/UX設計「AI-UX」の考え方が分かる
2. 従来のHuman-UXとAI-UXの違いを整理し、自社サイトの課題を把握できる
3. 自社サイトが「最適型」「人間依存型」など、どの状態にあるか確認できる
4. AI-UXを高めるために整備すべき5つの要素が分かる
5. Human-UXを崩さず、AI対応を進めるための実装優先順位が分かる
Dual UXマトリクス——御社のサイトはどこにありますか?


1. 従来のユーザビリティ設計が直面している新たな盲点
ユーザビリティという概念は、1990年代から一貫して「人間がサイトをいかに使いやすくするか」を追求してきました。
見やすいレイアウト、明快なナビゲーション、適切な情報階層、訴求力のあるコピー——これらはすべて、人間の認知特性や行動パターンを前提に設計されたものです。検索エンジンへの対応(SEO)が加わった後も、設計思想の主軸は「人間に伝わること」でした。
しかし、AIエージェントがサービス選定の「代理人」として機能するようになると、話が変わります。
人間は文脈を読み、行間を理解し、感情にも反応します。一方、AIが情報を処理するロジックは根本的に異なります。AIはページの構造・用語の一貫性・情報の明示性・信頼性シグナルの有無を、人間とは異なる方法で「読みます」。
人間にとって「なんとなく伝わる」表現は、AIにとって「判断材料が不足している」表現になりえます。
これがユーザビリティ設計における新たな盲点です。人間向けに磨かれた優良サイトが、AIに正しく評価されないという逆説
——これを解決するための概念が「AI-UX」です。
2. AI-UXとは何か——ECマーケティングが提唱する新概念
AI-UX(AIユーザビリティ)の定義
AIエージェントがサイト情報を正確に理解・評価・推薦できる度合い。
AI-UXは、Human-UX(従来型のユーザビリティ)と対になる概念として定義しています。
それぞれの違いを整理すると、以下のようになります。
| 概念 | 評価対象 | 主な評価軸 |
| Human-UX(従来型) | 人間のユーザー | 見やすさ・操作性・コンテンツの訴求力・感情的共感 |
| AI-UX(ECM提唱) | AIエージェント | 構造の機械可読性・意図の明示性・信頼性シグナル・推薦適合性 |
「クローラビリティ」との違い
AI-UXとSEOで語られる「クローラビリティ」は、混同されやすいですが別の概念です。
クローラビリティは「検索エンジンのボットにインデックスされるための技術的基盤」を指します。これに対してAI-UXは「AIが情報を正しく理解し、評価・推薦できるかどうか」という、より上位の概念です。
クローラビリティはAI-UXの必要条件ではありますが、十分条件ではありません。技術的に問題のないサイトであっても、情報の意図が曖昧であれば、AIは正確な評価・推薦を行うことができません。
3. Dual UXマトリクス——自社サイトの現在地を確認する
下記はDualマトリクス図です。自社サイトが「人間には伝わっているが、AIには伝わっていないのではないか」を確認するための整理図です。
横軸のHuman-UXは、人間のユーザーに対する最適化度を示します。
右に行くほど、見やすいレイアウト、分かりやすい導線、伝わりやすいコピー、操作しやすいUIなどが整っている状態です。
左側は、人間にとっても情報が分かりにくく、使いづらいサイトを指します。
縦軸のAI-UXは、AIエージェントに対する最適化度を示します。
上に行くほど、見出し構造、情報の明示性、サービス定義、実績・著者情報・更新日などの信頼性シグナルが整理されており、AIがサイト内容を正しく理解・評価・推薦しやすい状態です。
下側は、人間にはある程度伝わっても、AIには判断材料が不足しやすい状態を表します。
AI-UXとHuman-UXを2軸に取ると、サイトは以下の4つのタイプに分類されます。
御社のサイトはどこに位置しますか?

現在、多くの優良企業サイトは「②人間依存型」に位置しています。
これは決して悪いことではありません。これまでの競争軸が「人間にいかに伝えるか」であった以上、Human-UXへの最適化は正しい投資でした。
しかし、AIエージェントが調達・購買の意思決定に関与する割合が増えるにつれ、②にとどまったままでは「AIに選ばれない」リスクが高まります。競合他社が先にAI-UXへ対応した場合、AIによる推薦優位が生まれ、やがて人間のビジネス評価にも影響が及ぶことになります。
目指すべきは「①最適型」への移行です。
重要なのは、Human-UXを犠牲にせず、AI-UXを上乗せする形で①を実現するアプローチをとることです。
Dualマトリクス4タイプ
①最適型
Human-UXもAI-UXも高い状態です。人間にとって分かりやすく、AIにも正しく理解されるため、今後目指すべき理想形といえます。
②人間依存型
Human-UXは高い一方で、AI-UXが低い状態です。現在の優良サイトの多くがここに該当し、人間には伝わるものの、AIに選ばれにくいリスクがあります。
③過渡期型
AI-UXは高いものの、Human-UXが低い状態です。AIには読まれやすい一方で、人間にとって魅力や納得感が弱く、コンテンツ品質の改善が必要です。
④旧来型
Human-UXもAI-UXも低い状態です。人間にもAIにも情報が伝わりにくく、早急な改善が必要な領域です。
4. AI-UXを構成する5つの要素
①最適型のサイトを実現するために、AI-UXは以下の5つの要素で構成されると定義しています。
| 要素 | 概要 | Human-UXとの関係 |
| ① コンテンツ構造の機械可読性 | 見出し階層・schema・箇条書きの論理構造 | Human向け可読性と重複しており、両立しやすい領域です |
| ② 意図明確性 | サービス定義の曖昧さをなくし、AIが誤分類しない表現設計 | ブランドコピーと矛盾する場合があります。慎重な調整が必要です |
| ③ 信頼性シグナルの明示化 | 実績・受賞・メディア掲載などをAIが解釈できる形で配置 | E-E-A-T設計とほぼ一致。追加コストが小さい領域です |
| ④ 内部リンク構造の論理性 | トピッククラスター構造・ページ間の文脈的つながり | サイト回遊設計と同じ方向性のため兼用できます |
| ⑤ 更新・鮮度シグナル | 最終更新日・著者情報・日付入りコンテンツの整備 | Human向けにも信頼感の向上に直結します |
要素①:コンテンツ構造の機械可読性
AIは、ページのテキストをフラットに読むのではなく、見出しの階層構造・段落の区切り・箇条書きの論理性をもとに「この情報が何についての何か」を判断します。H1〜H3の階層が論理的に整理され、情報が構造化されているサイトは、AIが理解しやすい状態にあります。schema markupは、いわば「AIへの注釈」として機能します。
要素②:意図明確性
「総合的なデジタルマーケティング支援」「ワンストップでご対応」——こうした表現は人間には伝わっても、AIには分類困難なシグナルになります。「何を」「誰に」「どのような方法で」提供しているかを、具体的かつ一貫した言葉で記述することが、AI-UX向上の基本です。
要素③:信頼性シグナルの明示化
AIが信頼性を評価する際、受賞実績・メディア掲載・クライアント名・著者の経歴といった信頼性シグナルが、AIに解釈できる形で配置されているかが重要です。Human-UXのE-E-A-T設計と方向性が重なるため、追加投資が比較的小さい領域です。
要素④:内部リンク構造の論理性
AIはサイト内のページ間のつながりを辿り、トピックの専門性の深さと一貫性を評価します。「このサイトはMAツールについて深い知識を持っている」とAIに判断させるためには、関連コンテンツが論理的なトピッククラスター構造で設計されている必要があります。
要素⑤:更新・鮮度シグナル
最終更新日・公開日・著者情報・定期更新されているコンテンツの存在は、AIが情報の鮮度と信頼性を評価する際の重要な手がかりになります。特に変化の速い領域(AI・デジタルマーケティング等)では、鮮度シグナルの整備が推薦優位に直結します。
5. Human-UXを崩さずにAI-UXを高める実装の優先順位
AI-UXの5要素を理解していただいても、実務では「どこから手をつければよいか」が悩みどころです。以下の優先順位フレームを参考にしてください。
| 優先度 | 要素 | アクション例 | Human-UXへの影響 |
| ★★★ | ③信頼性シグナル | 実績・受賞・著者プロフィールの整備 | Human-UXにもプラス(信頼感向上) |
| ★★★ | ⑤鮮度シグナル | 更新日・公開日・著者情報の付加 | Human-UXにもプラス(信頼感向上) |
| ★★☆ | ①構造可読性 | 見出し階層の見直し・schema追加 | ほぼ中立(構造改善) |
| ★★☆ | ④内部リンク | トピッククラスター設計の見直し | Human-UXにもプラス(回遊率向上) |
| ★☆☆ | ②意図明確性 | サービス定義文・ターゲット記述の明示化 | 要注意:ブランドコピーと競合する場合あり |
「②意図明確性」の優先度を最後にしているのには理由があります。Human-UX的なコピー設計——ブランドらしさを表現する言葉選び、読者に共感を生む表現——と矛盾が生じる可能性があるからです。
ここは単なるテキストの書き換えではなく、「AIに伝わり、かつ人間にも刺さる表現」を両立させる設計ノウハウが求められます。筆者の現場経験上、最も難易度が高く、専門家との議論が有効な領域です。
6. まとめ:今、AI-UXに取り組む意味
本稿でご紹介したAI-UXは、Human-UXを否定するものではありません。AIエージェントが購買・調達の意思決定に関与する比率が高まるにつれ、「人間にも、AIにも評価されるサイト」の設計が、競合優位の新しい軸になるという考え方です。
AIエージェント活用が日本の大企業にも本格的に普及するタイミングは、数年以内に訪れます。その時、Dual UXの観点でサイトを設計した企業とそうでない企業の間には、「AIに選ばれる/選ばれない」という明確な差が生まれます。
Human-UXの資産を活かしながら、AI-UXを上乗せする——この「Dual UX設計」こそが、これからのサイトユーザビリティの核心です。
本稿が、自社サイトのAI対応を検討するきっかけになれば幸いです。また、前編にあたる「ユーザビリティ改善・CVR改善コンサル会社6選」もあわせてご覧ください。
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