「CRM施策はやっている。メルマガも月2回送っている。でも、リピート率が上がらない」
こういった状況にある事業者と、月商1,000万円以上のECサイト担当者の間には、何か決定的な違いがあるのでしょうか。
弊社がEC通販担当者222名(月商1,000万円未満111名・月商1,000万円以上111名)を対象に実施した調査では、CRM施策の実施状況に関して、月商規模による明確な差が見えました。
違いは「やっているかどうか」ではありません。「何を・どのように設計してやっているか」という施策の深度に差があります。
本記事では調査結果を解説しながら、月商を問わず今日から改善できるCRM施策の設計ポイントをお伝えします。
この記事でわかること
1. EC通販のCRMとは何か(定義・目的・主な施策種類)
2. 月商規模別のCRM実施状況の差(調査データ n=222)
3. LINEがメルマガを上回った理由とチャネル使い分け
4. 都度配信 vs ステップ配信の決定的な違いと導入効果
5. 月商規模別・今すぐ取り組むべきCRM施策の優先順位
ネットショップ動向調査~小規模/大規模ネットショップ~ *第一弾 *第二弾 |

伊藤 肇
【Webly編集部】執行役員 兼 シニアコンサルタント
2000年からデジタルマーケティング業界で、大手企業のウェブマーケティングを支援。Googleアナリティクスが生まれる前、2002年にサーバーの生ログを集計して「アクセスログ解析」をレポート。2006年にサイバーエージェント、アルベルト(現アクセンチュア併合)を含め業界をリードする各社を招待して「コンバージョンアップサミット」を主催。以降、800プロジェクトのサイトユーザビリティ改善に携わる。
2025年11月5日REAL VALUE(リアルバリュー)にプレゼンターとして出演。堀江貴文氏のYouTube ホリエモンチャンネルにて公開中。
1.EC通販CRM調査の概要:222社の月商別実施状況と設問設計
調査概要
・対象:月商1,000万円未満のECサイトWeb担当者111名、月商1,000万円以上111名
・調査期間:2021年4月8日~9日
・主要業種:総合小売・アパレル・化粧品・健康食品・サプリメント(両規模共通)
・出典:ECマーケティング株式会社調査
本調査では「CRMの重要性認識」「CRM実施有無」「実施施策の種類」「メール・LINE・アプリでの実施内容」「アウトソース状況」を設問しています。以降、順番にデータを解説します。
【本アンケートの回答者やネットショップの概要】


■ネットショップの業種
設問:あなたが担当しているWebサイトの業界(複数ある場合は最も売り上げの大きなサイト)をお答えください。


月商1000万円未満、月商1000万円以上のネットショップともに、「総合小売」が圧倒的に多く、次いで「アパレル」となっています。特徴的なのは、月商1000万円未満のネットショップでは、「教育・教材」(5.4%)で上位にいるのに対して、月商1000万円以上のネットショップではほとんどなかったことです。全体的に「総合小売」「アパレル」が圧倒的に多く、次いで「ソフトウェア」「化粧品」「健康食品・サプリ」が多い割合を占めるといった傾向は、月商にかかわらず大きく変わりはない結果となりました。
2. CRMの重要性認識と実施状況:「やること」は増えたが「深さ」が違う
①ECにおけるCRMの重要性:月商1,000万円以上の44.5%が「非常に重要」
設問:あなたのネットショップにおいてCRMは重要な施策だと思いますか?


月商1,000万円以上では44.5%が「非常に重要」と回答したのに対し、月商1,000万円未満では20.7%と約半分です。
この差は経験値から生まれています。月商が大きいほどメルマガ・LINEの配信リストが大きく、リピート率が1%改善するだけで売上インパクトが大きいため、CRM施策の費用対効果を実感しやすいのです。
逆に言えば、月商1,000万円未満のECサイトでも「CRMで得られる売上インパクト計算」をしてみることで、施策への優先度と投資判断が変わる可能性があります。
②CRM実施有無:月商1,000万円以上の9割近くが「実施している」
設問:あなたのネットショップにおいてはCRM施策を実施していますか?


月商1,000万円未満のネットショップでは、「実施している」が66.7%で、「実施していない」が33.3%という結果になりました。
月商1,000万円以上のネットショップでは、「実施している」が87.3%で、「実施していない」が12.7%という結果になりました。
月商1,000万円以上のネットショップのWeb担当者は、CRMの重要性を理解している方が多いためか、9割近くのネットショップがCRMを実施しています。月商1,000万円未満のネットショップでも6割以上が実施していて、CRM施策は、ネットショップの施策としては、“実施すべき施策”という考え方は、年商の大小関係なく、ある程度、定着しているといえるでしょう。
次は、CRMを実施しているネットショップに、具体的なCRMの施策について聞いてみました。
3. 実施施策の種類:LINEがメルマガを抜いた事実と、その意味
①CRM施策として何を使っているか
設問:前問で「実施している」と答えた方にお聞きします。以下のCRM施策で実施しているものを教えてください。


月商1,000万円未満のネットショップでは、「LINEメッセージ配信」が67.6%で一番多く、次いで「メルマガ配信」が63.5%、「ダイレクトメール」が44.6%。
月商100万0円以上のネットショップでは、「LINEメッセージ配信」が76.0%で一番多く、次いで「メルマガ配信」が69.8%、「ダイレクトメール」が59.3%という結果になりました。
注目すべきは「LINEメッセージ配信がメルマガを上回っている」という結果です。
従来のEC通販CRMはメルマガが中心でしたが、スマートフォンの普及とLINEの国内利用率の高さから、LINE公式アカウントを活用したCRMが急速に広がっています。
LINEとメルマガの特性比較(6軸):
| 比較軸 | LINE公式アカウント | メールマガジン | 出典・補足 |
|---|---|---|---|
| 平均開封率 | 約55~60% | 20~30% | LINEヤフー社公式発表(LINE開封率)・EC業界メルマガ平均(Benchmark Email, 2022年) |
| 即時性 | 高い(プッシュ通知でロック画面に表示) | 中~低(受信ボックス確認タイミングに依存) | |
| 1回あたりのコンテンツ量 | 少~中(テキスト・画像・リッチメニュー) | 多(長文・HTML・動画リンク対応) | |
| ステップ配信との親和性 | 中(LINE公式のステップ配信は機能制限あり) | 高(詳細なシナリオ分岐が可能) | |
| 向いている施策 | タイムセール・クーポン・期限付きキャンペーン・リマインド | コンテンツ提供・長期育成・ステップ配信・再購入促進 | |
| 弊社調査での実施率 (月商1,000万円以上) | 76.0% | 69.8% | ECマーケティング株式会社調査、2021年4月 |
開封率の高さからLINEは「今すぐ見てほしい情報」に向いており、メルマガは「読み込んでもらいたいコンテンツ」に向いています。
この2つを組み合わせて設計するのが、今の標準的なCRM設計です。
4. 最大の差:「ステップ配信」の実施率
今回の調査で、月商規模による最も顕著な差が出たのが「ステップ配信の実施率」です。
月商1,000万円未満



月商1,000万円以上



ステップ配信(ステップメール・ステップLINE)の実施率:
| 実施率 | 月商1,000万円未満 | 月商1,000万円以上 |
|---|---|---|
| ステップを踏んだ配信実施 | 20~30%台 | 50%以上 |
月商1,000万円未満のECサイトでは2~3割程度しかステップ配信を実施していないのに対し、月商1,000万円以上では半数以上が実施しています。
都度配信 vs ステップ配信の5軸比較:
| 比較軸 | 都度配信(一斉配信) | ステップ配信(シナリオ型) | 補足 |
|---|---|---|---|
| 対象の選定 | 全顧客または大まかなセグメント | 行動(購入・登録・休眠)をトリガーに自動選定 | |
| 配信タイミング | 発信者が任意に設定(セール日・配信予約) | 顧客行動から逆算して自動送信 | |
| コンテンツの個別最適化 | 困難(同一内容を一斉配信) | セグメント・ステージ別に内容が自動分岐 | |
| 設定工数 | 毎回発生(都度作成・送信) | 初期設計後は自動(工数が一気に削減) | |
| CVR・リピート率への効果 | 限定的(全員に同じメッセージのため反応率が下がりやすい) | 高い(タイミング・内容が最適化されているため反応率が高い) | 自動化されたトリガーメールは通常の一斉配信と比較して開封率・クリック率が大幅に高い傾向(Omnisend社グローバル調査等) |
ステップ配信に取り組めていない最大の理由は「専用ツールの導入コスト」です。
ステップメールはメルマガ配信ツールのオプション機能として提供されることが多く、ステップLINEはLINE公式アカウントのツール連携が必要なため、月商の低いECサイトにはハードルが高く感じられます。
しかし、ステップ配信こそが「都度配信との成果の差」を生む最大の要因です。ツールコストと成果改善のバランスを試算して、導入を検討することを推奨します。
5. CRM施策のアウトソース状況:自社運用 vs 外部委託の選択
設問:前問で「実施している」と答えた方にお聞きします。CRM施策は外注していますか?(したことがありますか?)


月商1,000万円未満のネットショップでは、「制作関連のみ外注している」が39.2%で一番多く、次いで「すべて外注している」が32.4%、「戦略や分析のみ外注している」が17.6%、「外注せずに全て自社で行っている」が10.8%。
月商1,000万円以上のネットショップでは、「すべて外注している」が39.6%一番多く、次いで、「制作関連のみ外注している」が29.2%、「外注せずに全て自社で行っている」が17.7%「戦略や分析のみ外注している」が13.5%という結果になりました。
「完全自社でCRM施策を行っている」割合は両規模ともに15%前後です。大多数が何らかの形で外部リソースを活用しています。
月商規模別・外注活用の傾向:
なお、施策の「シナリオ設計」と「顧客データの分析・解釈」は、外注しても自社に知見として蓄積することが中長期的なCRM成熟度向上に不可欠です。
6. 月商規模別:今すぐ取り組むべきCRM施策の優先順位
調査結果から見えた「月商規模別の取り組み差」を踏まえ、今すぐ実施すべき施策の優先順位を整理します。
月商1,000万円未満のECサイト向け
優先度1:ステップメールの導入(都度配信からの脱却)
→ 初回購入後のF2転換ステップメール(3~5通)から始める
→ ツールコストは最安クラスで月数千円~。ROIを計算して導入判断を
優先度2:LINE公式アカウントの活用開始
→ 友だち追加促進(会員登録・購入完了ページでの案内)
→ タイムセール・クーポン配布の即時通知に使う
優先度3:セグメント配信の設計
→ 「新規/リピーター/休眠」の3セグメントで配信内容を変える
月商1,000万円以上のECサイト向け
優先度1:ステップ配信のシナリオ深化
→ F2転換・休眠顧客・VIP顧客ごとのシナリオ設計を精緻化する
→ メルマガ×LINEのクロスチャネルシナリオを設計する
優先度2:CRM施策のKPI体系の整備
→ F2転換率・リピート率・LTV・休眠率を月次でダッシュボード管理する
優先度3:外注範囲の見直し
→ 戦略設計を内製化し、制作・運用を外注に切り出すか
→ 専任担当者を置いて完全内製化するかを判断する
7. よくある質問
- EC通販のCRMで最初に取り組むべき施策は何ですか?
-
まず「購入完了直後のサンクスメール・ステップ配信の設計」から着手することを推奨します。新規購入者が2回目の購入に至るかどうかは購入後30~60日間のコミュニケーションで大きく左右されるためです。弊社調査(2021年・n=222)では、月商1,000万円以上のECサイトの50%超がステップ配信を実施しているのに対し、月商1,000万円未満では20~30%台に留まっており、この実施率の差が月商規模の差の主要因の一つです。ツールの導入前に「初回購入者向けシナリオ(例:購入3日後→使用感確認、10日後→クーポン、30日後→再購入促進)」を設計しておくことが先決です。
- CRMはリピート率にどのくらい影響しますか?
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CRM施策の「深度」によって影響度は大きく異なります。弊社調査では、CRMの重要性を「非常に重要」と認識している割合は月商1,000万円以上のECサイトで44.5%に達するのに対し、月商1,000万円未満では20.7%に留まっており、この認識の差が施策の質・量の差に直結しています。ステップ配信を導入している事業者ほど「CRMが売上に効いている」という実感を持つ割合が高い傾向があります。なお、新規顧客の維持コストは獲得コストの5~7分の1(Bain & Company調査)とされており、リピート率1~2ポイントの改善がLTV全体に与える複利的な影響は大きいです。
- CRM施策は自社で内製すべきですか、それとも外注すべきですか?
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弊社調査では、月商1,000万円未満では「制作関連のみ外注」(39.2%)が最多である一方、月商1,000万円以上では「すべて外注」(39.6%)が最多となっており、規模が大きくなるほど専門外注への依存度が高まる傾向があります。ただし「施策の企画設計」と「顧客データの分析・解釈」は、外注しても自社に知見として蓄積することが中長期的なCRM成熟度向上に不可欠です。メール文面の制作・HTMLコーディングは外注が効率的ですが、「どのセグメントに何のタイミングでどのメッセージを届けるか」というシナリオ設計は自社内で主導権を持つことを推奨します。
- LINEとメルマガはどちらをCRMの主軸にすべきですか?
-
用途で使い分けることが最善で、どちらか一方に絞る必要はありません。LINEの開封率は約55~60%(LINEヤフー社公式データ)で、EC業界のメルマガ平均(20~30%)と比べて2~3倍の即時接触効果があるため、タイムセールや期限付きクーポンの告知はLINEが適しています。一方でメルマガは長文コンテンツの配信・詳細な開封・クリック・購買データの分析・複雑なステップ配信シナリオの構築に優れています。弊社調査では月商1,000万円以上のECサイトではLINEがメルマガの実施率を上回っていますが(76.0% vs 69.8%)、両チャネルを目的別に使い分けているケースが成果につながっています。
8. CRM施策設計チェックリスト(10項目)
【施策の基盤】
□ 1. CRM施策のKPI(F2転換率・リピート率・LTV)を定義して月次計測しているか
□ 2. メルマガ・LINE・DMのうち、少なくとも2チャネルで配信しているか
□ 3. メルマガとLINEの役割(コンテンツ提供 vs 即時告知)を使い分けているか
【ステップ配信の設計】
□ 4. 初回購入後のF2転換ステップメール(3通以上)が稼働しているか
□ 5. 会員登録後の初回購入促進ステップが設計されているか
□ 6. 休眠顧客(90日以上未購入)への再活性化シナリオが存在するか
【セグメント別施策】
□ 7. 「新規/リピーター/優良/休眠」の4セグメントに分けた施策設計があるか
□ 8. 優良顧客向けの「特別扱い施策」(先行案内・限定クーポン等)があるか
【外注・リソース管理】
□ 9. CRM施策の工数を把握し、自社で対応可能かを判断しているか
□ 10. 外注している場合、効果計測と改善指示は自社で行える体制になっているか
9. まとめ:月商の差は「CRM施策の深度」の差
今回の調査が示す最も重要な示唆は以下の2点です。
① 「やっているかどうか」ではなく「ステップ配信をやっているかどうか」で差がつく
月商1,000万円未満でも6割以上がCRM施策を実施していますが、
ステップ配信の実施率は2~3割台にとどまっています。
月商1,000万円以上では50%以上がステップ配信を実施しており、
この「施策の深度」の差がリピート率・LTVの差を生んでいます。
② LINEはもはや「オプション」ではなく「主力チャネル」
LINEメッセージ配信がメルマガ配信を実施率で上回った事実は、
EC通販のCRMチャネルが変化していることを示しています。
開封率約55~60%(LINEヤフー社公式データ)という高さを活かした
即時告知・リマインドにLINEを積極的に活用することが
今の標準的なCRM施策です。
今すぐ取り組める2つのアクション:
① 都度配信だけの場合、F2転換ステップメールを3通だけ設計する
「購入5日後:使い方ガイド」「15日後:Q&A」「30日後:2回目クーポン」
この最小構成から始めてください。
② LINE公式アカウントの友だち数を確認する
友だち数が少ない場合は、購入完了ページ・会員登録ページでの
友だち追加促進バナーを設置することから始めてください。
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