「業務の効率化を図りたい」「営業活動をデジタル化したい」――そんな背景から、BtoB ECの導入を検討する企業が増えています。
しかし「どのシステムを選べば良いのか分からない」あるいは「導入しても業務効率化や売上拡大といった成果を本当に得られるのだろうか」と、不安を感じる企業担当者も少なくありません。
この記事では、BtoB ECの基礎知識をはじめ、市場規模や導入のメリット・デメリット、そして成功事例とシステム選定のポイントについて、詳しく解説します。
1.BtoB ECとは?市場規模とBtoCとの違い
BtoB EC導入を検討する際には、基本的な仕組みや成長性などの正しい理解が必要です。まず、BtoB ECの概要や市場規模、そしてBtoCとの違いについて見ていきましょう。
BtoB ECの基本概要
BtoB EC(Business to Business Electronic Commerce)とは、企業間の取引をオンライン上で行う電子商取引のことを指します。
従来、企業同士の受発注はFAXや電話、メールなどのアナログな手段で行われてきましたが、BtoB ECを活用してこれらの業務をデジタル化すれば、効率化を図ることができます。
最大の特徴は、取引先ごとに異なる価格や支払い条件、商品ラインナップを柔軟に設定できること。また、BtoB取引では一度に大量の注文が発生することが多く、リピート注文の自動化や、見積依頼・承認フローをシステム上で完結させる機能も求められます。
これらの機能によって、業務の効率化と取引精度の向上が実現できるのが、BtoB ECの大きな魅力です。
BtoB ECの市場規模と成長性
BtoB ECは、単なるトレンドではなく、市場としても確かな成長を続けています。
経済産業省の「電子商取引に関する市場調査(令和5年版)」によると、2023年時点での日本国内のBtoB EC市場規模は約465兆円に達しており、全取引の実に約4割 ( EC化率:約40%)を占めています。
(※EC化率とは、企業間取引全体に対してEC取引が占める割合のことです。)
この成長の背景には、業務の効率化や人手不足への対応、コスト削減のニーズが高まっていることが挙げられるでしょう。特に製造業や卸売業では、取引のデジタルシフトが急速に進んでおり、今後は中小企業やローカルビジネスにも広がっていくものと予測されます。
さらに、越境ECなどを活用した海外市場との取引機会も増えており、グローバルな環境にも対応できるECシステムの導入も進んでいます。
BtoB ECとBtoC ECの違い
BtoB ECとBtoC EC(Business to Consumer Electronic Commerce)は、いずれも電子商取引の一種ですが、その仕組みや運用において大きな違いがあります。
①対象の顧客
まず、対象となる顧客が異なります。BtoC ECは一般消費者を対象にしており、誰でもアクセスできるオープンなサイトが中心です。一方で、BtoB ECは法人を対象としたクローズドな環境で運用されることが多く、一般的には顧客ごとに契約条件や価格が変動する場合が多いです。
②取引のスケール
取引のスケールにも違いがあります。BtoCでは1件あたりの購入金額が比較的小さく、決済もクレジットカードやコンビニ払いが主流ですが、BtoBでは高単価かつ大量の注文が多く、掛け払い(請求書払い)や銀行振込といった決済方法が基本です。
③マーケティング手法
マーケティング手法も異なります。BtoCではSNSやキャンペーン、レビューなどを活用した感情や嗜好に訴える広告戦略が展開されますが、BtoBでは業務課題の解決を前提としたロジカルな訴求が求められます。
BtoB取引ならではの特徴的な機能
BtoB ECでは、「高単価・大量発注が多い」「取引先ごとに条件が異なる」など、BtoCとは大きく異なる要件が求められます。以下では、BtoB特有の主な機能について解説します。
①相対料金(ログイン後価格表示)
BtoB取引では、取引先の規模・取引実績・契約内容に応じて価格や割引率が変わることが一般的です。そのため、会員(法人)ごとに異なる価格設定が可能な「相対料金」の仕組みが必須となります。具体的には、ログイン後にのみ個別の価格が表示される設計にしておくことで、取引先ごとに最適化された販売条件を提供できます。
②掛け払いへの対応
BtoB取引では、大量の発注が一度に行われることが多いため、掛け払い(請求書払い)や月末締めの銀行振込といった後払いの決済手段が重視されます。クレジットカードやオンライン決済のみでは取引がスムーズに進まないケースもあるため、請求書の発行・支払い管理を一元化できるECシステムを選定することがポイントです。
③法人登録(法人番号、屋号などでの認証)
BtoCのように“誰でも会員登録ができる”仕組みではなく、法人番号や屋号などを活用した認証プロセスが必要です。これにより、取引先が正規の法人であるか確認しつつ、個社ごとに契約情報や支払い条件を紐づけることができます。
とくに美容・サロン業界などでは、プロ専用商材を扱うECサイトが多く、実際に業務で利用する法人かどうかの確認が厳重に行われています。
2.BtoB EC導入のメリットとデメリット
BtoB ECの導入は、多くの企業にとって業務改善と売上拡大のチャンスですが、一方で導入に伴うコストや社内外の調整といった課題も生じます。次に、BtoB ECを導入するメリットとデメリットについて解説します。
BtoB EC導入のメリット
①業務効率化
BtoB ECを導入する最大の効果は、受発注業務の自動化による業務効率化です。これまでFAXや電話、メールで対応していた注文処理をオンライン上で完結させることができ、人的ミスや確認作業の手間が大幅に軽減されます。また、注文は24時間365日受け付けられるため、営業担当者が対応できない時間帯でも受注が可能です。
②取引コスト削減
BtoB ECの導入により、人的コストや書類関連コストをカットできます。例えば、紙の発注書や請求書を電子化することで、印刷・郵送・保管にかかる費用を削減可能です。また、業務の自動化によって処理時間が短縮され、担当者のリソースを他の業務に振り分けられます。
③売上拡大
BtoB ECは既存顧客との取引効率化だけでなく、新規顧客の獲得ツールとしても有用です。検索エンジン経由の集客と広告を組み合わせれば、これまでアプローチできなかった企業とつながる可能性が高まります。また、キャンペーンやリコメンド機能を活用することで、ECサイト経由の受注数が増え、売上アップにもつながります。
④データ活用
ECサイトを通じた受注データの蓄積によって、顧客ごとの購買傾向や頻度を可視化できます。これによって、戦略的なマーケティング施策が可能です。例えば、リピート率の高い顧客には定期購入の提案を、離脱傾向のある顧客には特別オファーを提供するなど、データに基づいてアプローチできます。
⑤新規顧客の開拓
従来、訪問営業や電話アプローチ、展示会出展などに多くのコストと工数を投じていた企業も、BtoB ECサイトを導入することで、検索エンジンやWeb広告を活用した新規顧客獲得が可能になります。これにより、以下のような利点を得られます。
- ・営業コストの削減
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オンライン上での集客や商品訴求が中心となるため、遠方への訪問や大量のパンフレット作成・郵送などの費用が削減できます。営業担当者は、商談やフォローアップなど付加価値の高い業務に集中しやすくなります。
- ・潜在顧客へのリーチ拡大
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Web検索や広告を通じて、これまでリーチできなかった全国・海外の企業にも製品・サービスをアピールできます。業界内での認知度向上にもつながり、新しい顧客層を獲得しやすくなります。
- ・リアルタイムでの問い合わせ・受注
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ECサイト上の情報を見たタイミングで、そのまま問い合わせや発注につながる可能性が高まります。従来のオフライン営業と比べてリードタイムを短縮し、商機を逃しにくい仕組みを構築できます。
このように、BtoB ECは既存顧客との関係強化だけでなく、新規顧客との出会いを創出するプラットフォームとしても機能します。結果的に、営業活動の効率化と効果向上の両面を実現できるのが大きな魅力です。
BtoB EC導入のデメリット・課題
①導入コストの問題
BtoB ECは、初期の構築コストや運用コストが高額になる傾向があります。パッケージ型システムであっても数百万円規模の投資が必要となる場合が多く、カスタマイズや基幹システムと連携するケースでは、さらにコストが膨らむ可能性があります。
②基幹システムとの連携の手間
ERP、CRM、在庫管理といった既存のシステムとBtoB ECを連携させるには、技術的な知識と十分な開発リソースが求められます。連携に失敗すると、業務フローが分断され、かえって非効率になってしまうことも。そのため、設計の段階から各システムの連携可能性を見極めるとともに、対応できるベンダーの選定が必要です。
③取引先のデジタル対応状況
取引先によっては、発注担当者がECによる受発注に慣れておらず、従来通りのFAXや電話を希望するケースも少なくありません。そのため、全取引先に一律でEC移行を促すのではなく、アナログ手段と並行した運用体制や、取引先に向けたサポート体制の整備が求められます。
④社内オペレーションの変革
BtoB ECの導入は、社内の業務フローや営業の役割にも大きな影響を与えます。例えば、これまで営業担当者が行っていた受注関連の業務が不要となる一方で、付加価値のある新たな提案やフォローアップなど、活動のシフトが必要です。この変化に柔軟に対応できるよう、事前の社内教育や業務の再設計が求められます。
小規模・低コストから始めるBtoB ECのポイント
BtoB ECの導入にはコストがかかるというイメージがありますが、昨今は初期費用や月額料金を抑えられるサービスも多数登場しています。その中でも、「Bカート」のようにBtoB取引に特化したECカートが注目されています。
Bカートに代表される格安BtoB ECカート
・BtoB向けに必要な最低限の機能を網羅
例えば、法人専用の会員登録フローや掛け払いへの対応、取引先ごとの価格設定(相対料金)など、BtoBに特化した機能があらかじめ備わっています。
・スモールスタートしやすい料金プラン
初期費用や月額料金が比較的安価なため、小規模ECから始めたい企業や、まだオンライン受発注に慣れていない取引先が多い企業でも導入しやすい点が特徴です。
低コスト導入のメリットと留意点
- ・導入ハードルを下げられる
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大掛かりなシステムを構築する余裕がない企業でも、スモールスタートでオンライン受発注を実現できます。これによって、アナログ業務からの移行がスピーディに行えるという利点があります。
- ・将来的な拡張性の限界
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一方で、最初は十分に感じられた機能も、事業拡大やニーズの変化に応じて“物足りない”段階が訪れることがあります。たとえば、在庫管理や基幹システムとの連携など、より高度なカスタマイズが必要になると、システム移行(カートの載せ替え)が避けられないケースもあるのです。
- ・導入前に中長期的な運用方針を明確に
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「まずは低コストでスタート→拡張性が必要になったら別のシステムに移行」という方針も一つの手段ですが、移行には追加費用やシステム切り替えのリスクが伴います。自社の成長計画や必要機能を整理し、長期的な視点でECシステムを検討することが重要です。
3.BtoB ECの主な活用パターン
BtoB ECは、単なるオンライン販売の手段にとどまらず、業務効率化や営業支援、社内運用の最適化といった多面的な役割を果たすツールです。ここでは、主な4つの活用方法を紹介します。
既存顧客の注文サイト
BtoB ECは、既存顧客向けの専用注文サイトとして活用することで、受発注業務の効率化と精度の向上が実現できます。
顧客が直接オンラインで発注できるようになれば、電話やFAXによる受注と比べて人的ミスが減少し、業務スピードも大きく向上。また、ECサイト上で顧客ごとに契約価格を表示したり、注文履歴から簡単にリピート発注できる機能を備えたりすることで、利便性を高めつつ発注頻度も増やせます。
その結果、顧客満足度が向上し、長期的な取引関係の強化や売上拡大につながります。
営業支援ツール
BtoB ECは、営業担当者の活動を補完するツールとしても有用です。顧客に紹介した商品を、商談後にECサイト上で提案して購入を後押しすれば、成約率の向上が期待できます。
また、顧客ごとの購買履歴や閲覧傾向を分析し、そのデータに基づいた提案やフォローを行うことで、より精度の高い営業活動が可能です。
さらに、リアルタイムで在庫や価格を確認可能な機能を整備すれば、問い合わせや見積もり対応の時間を削減し、営業リソースをより付加価値の高い活動に集中させられます。
仕入先へのWeb発注システム
BtoB ECは、自社が仕入れる側として活用するWeb発注システムとしても活躍します。
発注業務をシステム化することで、担当者の手入力によるミスや確認作業の手間を削減し、発注のスピードと正確性を高めることが可能です。また、仕入先と在庫情報や納期データを連携すれば、過剰在庫や欠品のリスクを最小化できます。
発注状況が可視化され、担当者同士のやり取りも減少するため、全体の取引コストが削減され、業務全体の透明性も向上します。
本社・拠点間の受発注サイト
BtoB ECは、本社と支店・営業所・工場などの拠点間での受発注業務にも応用できます。
例えば、営業拠点から本社倉庫への資材補充依頼や、工場からの製造部品の調達をECサイト上で一元管理することで、業務の標準化と迅速な対応が可能です。
また、注文傾向や在庫消費のデータを活用すれば、補充タイミングの最適化や共同配送による物流コスト削減といった効果も。拠点ごとのオペレーションを可視化し、企業全体の業務効率を高める仕組みとして活用できます。
自社ECにとどまらないオンライン化の潮流
BtoBのオンライン取引は、自社でECサイトを構築する方法だけに限りません。近年は、受発注業務を代替・補完する仕組みや、展示場や見本市をオンライン化する取り組みが各業界で進んでいます。加えて、業種特化型のBtoBマーケットプレイスを活用する企業も増えてきました。
受発注のデジタル化・オンライン展示場
- ・リアル展示会のオンライン化
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コロナ禍以降、食品や外食産業をはじめ、多くの企業がオンライン展示会・ウェビナーを活用して新商品のPRや商談を行う事例が増えています。対面でのアプローチが難しくなる中、オンライン上で商品情報やカタログを公開し、リアルタイムで商談できる仕組みを整備することで、BtoB取引の新たな可能性を開拓しています。
- ・食材・外食業界の受発注システム事例
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たとえば、インフォマートが提供するサービスでは、食品メーカーや卸と飲食店をオンライン上で結びつけ、メニュー提案や納品・在庫管理まで一気通貫で行う事例が多く見られます。こうしたプラットフォームを活用することで、自社ECサイトを持たなくても、業務効率の向上や新規顧客との接点創出が可能となります。
業種特化型マーケットプレイスの活用
- ・製造業のリード獲得を支援するプラットフォーム
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製造業向けポータルサイトのイプロスのように、製造・開発部門の課題解決を目的としたBtoBマーケットプレイスがあります。ここでは、自社製品・技術情報を登録するだけでなく、掲載情報から問い合わせや見積依頼を受け付ける機能も整っているため、リード獲得の新たな経路として活用可能です。
- ・自社EC+マーケットプレイスの併用
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自社ECサイトで既存顧客をフォローしながら、マーケットプレイスを通して見込み顧客の獲得や新規販路の開拓を狙う企業も少なくありません。複数のチャネルを併用することで、販路拡大と同時に新しいニーズ・市場情報を得ることができます。
4.BtoB ECシステムの選定ポイントと構築方法
BtoB ECの導入効果を最大限に引き出すためには、自社に適したシステムを選定し、的確な構築方法を選ぶことが不可欠です。こちらでは、システムの選定時に重視すべきポイントと、主な構築方法について解説します。
BtoB ECシステム選定時に重要なポイント
①パッケージ型とフルカスタマイズ型の選択
BtoB ECの導入において、最初に決めるべきは「パッケージ型」か「フルカスタマイズ型(スクラッチ開発)」かの選択です。パッケージ型は既存のECプラットフォームを利用するため、導入コストが抑えられる上に短期間で導入可能。ただし、自社固有の業務フローに適合しない場合が多く、カスタマイズも制限されます。一方のフルカスタマイズ型は、ゼロから設計・開発するため自社の業務に完全に最適化できますが、初期費用が高く開発期間も長めです。
②基幹システムとの連携
BtoB ECは、単独で運用するのではなく、ERP・在庫管理・CRMといった既存の基幹システムと連携させることで真価を発揮します。例えば、在庫データや受注情報をリアルタイムで同期させると、業務の自動化や精度向上が図れます。導入前には、自社のシステム環境とAPIの互換性を確認した上で、連携可能なプラットフォームの選定が必要です。
③業務特化型の機能要件
BtoBでは、顧客ごとに異なる価格設定や支払い条件が求められるため、それに対応できるシステムかどうかの見極めが必要です。また、社内の承認フローや部署間のワークフローを取り込む場合は、ユーザー権限の管理や承認機能などを備えているかもチェックします。
BtoB ECの構築方法と費用感
①クラウド型
クラウド型(SaaS型)は、月額課金で利用できるサービス型のBtoB ECです。代表的なツールとしては「Shopify Plus」や「MakeShop」などが挙げられます。初期費用を抑えられ、短期間で利用をスタートできるのが魅力です。一方で、機能やカスタマイズ性には限界があり、大規模なBtoB取引や複雑な業務要件には向かないことも。中小企業での導入に適しています。
②パッケージ型
パッケージ型は、既存のECプラットフォームを利用し、自社の業務に合わせて必要な範囲のみカスタマイズする構築方法です。代表的なツールとしては「ecbeing」や「アラジンEC」などがあります。初期費用は数百万円程度で済む場合が多く、短期間での導入と基本機能の網羅性がメリット。カスタマイズの幅には限界があり、業務が複雑な企業には不向きです。
③スクラッチ開発(フルカスタマイズ)
スクラッチ開発は、自社専用にゼロからECシステムを構築する方法です。要件定義からUI/UX設計、システム開発までを全てオーダーメイドで対応できるため、複雑な受発注ルールや特殊なフローに完全対応します。初期費用は数千万円規模になることが多く、導入までに半年以上かかるケースもあるため、基本的に大企業向けです。
カスタマイズ費用と要件定義の注意点
BtoB ECカートを選定する際、自社固有のすべての業務フローや取引形態に完璧に合わせようとすると、カスタマイズ費用が莫大になるケースが少なくありません。コストだけでなく、運用面での負荷や保守にかかる手間も増大し、結果的に想定以上の導入期間と費用がかかってしまうことがあります。以下のポイントを踏まえ、“理想と現実”のバランスを見極めることが重要です。
1.優先度の高い要件を見極める
すべてを完璧に実現するのではなく、まずは優先度の高い要件を絞り込み、必要最小限のカスタマイズでスタートすることを検討しましょう。過剰な機能追加は、導入期間や運用コストの増加につながりやすいです。
2.運用でカバーできる範囲を検討する
どうしてもシステムで自動化が難しいフローがある場合は、一部を運用ルールや業務プロセスの見直しで対応する方法もあります。システムと運用の役割分担を明確にし、トータルの手間・コストを最適化する視点が必要です。
3.要件定義を柔軟に進める
BtoB ECの構築では、要件定義の段階で仕様を完全に固定してしまうと、後々の変更が難しくなりがちです。最初から「状況に応じて柔軟に要件を変更できる」体制を整えておくことで、想定外の課題や新たなニーズにもスムーズに対応しやすくなります。
- 段階的リリース:まずはコア機能をリリースし、実運用の中で生じる課題を都度解消しながら機能を拡張していく。
- PDCAサイクルを前提とした運用:要件定義→開発→運用の一方通行ではなく、常にテストやユーザーの声を確認し、改善を続けるアプローチが成功につながりやすいです。
5.BtoB ECサイトの成功事例と導入効果
BtoB ECは、業種や取引形態を問わず、多くの企業で成果を上げています。ここからは、業界別の導入成功事例と、実際に得られた業務改善効果を紹介します。
業界別のBtoB EC成功事例
①製造業A社 → 受発注業務の自動化による業務効率向上
製造業A社では、FAXや電話によるアナログな受発注業務を全面的にオンライン化。BtoB ECサイトを通じて注文処理を自動化した結果、入力ミスや伝達漏れといった人的エラーが大幅に減りました。社内の注文処理時間も短縮され、処理件数の増加にも柔軟に対応可能に。また、顧客側も発注作業の手間が減ったことで、注文ハードルが下がり、結果として受注件数が増加するという相乗効果が生まれました。
②卸売業B社 → 取引先別の価格設定機能を活用し売上増加
卸売業B社では、BtoB ECサイトに取引先ごとに契約に応じた価格を自動で表示する機能を実装しました。すると、営業担当者が見積もり作業する必要がなくなり、受注までのリードタイムが短縮。営業担当者の時間を、新規顧客開拓や提案営業などの戦略的業務に充てることができるようになりました。また、サイト内で顧客限定のキャンペーンを展開した結果、売上が大きく伸長するなど、顧客のエンゲージメント強化にもつながっています。
③サービス業C社 → 新規顧客の90%以上をECサイトで獲得
サービス業を営むC社では、BtoB向けECサイトの導入をきっかけに新規顧客獲得を大きく拡大しました。従来、展示会や営業担当による直接訪問が主な新規開拓手段でしたが、ECサイト上での問い合わせや購入が新規顧客の9割以上を占めるようになったのです。
- ・オンラインでの情報発信強化
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製品・サービス内容や事例紹介をECサイト上で網羅的に公開することで、検索エンジン経由の流入が増加。ネット上で比較検討した上で、そのままオンラインで問い合わせや注文を行う新規顧客が増えました。
- ・営業効率の向上
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ECサイトが新規リード獲得のフロント機能を担うことで、営業担当者は商談フェーズに集中できるように。結果的に、成約率や客単価の向上にもつながっています。
このように、BtoB企業でもECサイトが新規顧客開拓の中核を担うケースが増えており、「オンライン上での情報提供」と「スムーズな受発注体験」の両立が差別化要因となっています。
BtoB EC導入による業務改善効果
①業務効率の向上
BtoB ECの導入で、取引先が自らECサイト上で注文を完了できるようになり、営業担当者や事務スタッフの作業時間が大幅に削減されます。特にリピート発注が多い業種では、注文処理の自動化によって人的対応が不要となり、業務負担の軽減と販促強化につなげられます。
②顧客満足度の向上
ECサイトを通じて、営業時間外でも注文できる柔軟性や、リアルタイムでの在庫・納期確認が可能になることで、顧客の利便性が大きく向上。結果として「注文しやすい」「納期が明確で安心できる」といった評価が得られ、顧客満足度の向上と継続取引の促進につながります。
③売上の拡大
BtoB ECサイトでは、購買履歴に基づいたレコメンド機能を活用することで、アップセル・クロスセルを自動化できます。一例として「この商品を買った人は、こちらも購入しています」といった提案により、平均注文単価が上向いた企業も。これにより、ECサイトが単なる受注ツールにとどまらず、売上成長の起点として機能するようになります。
6.BtoB EC導入を成功させるためのポイント
BtoB ECを導入しただけでは成果は得られません。最後に、BtoB ECを最大限に活用するために押さえておくべき3つのポイントを解説します。
システム要件を明確化する
BtoB ECの導入にあたり、まず自社の業務フローや取引形態を細かく分析し、それに基づいてシステム要件を明確化する必要があります。
例えば、取引先ごとに価格が異なる場合は「顧客別の価格管理機能」が必要となり、発注前に承認プロセスがある企業では「承認フローの管理機能」が必須です。
さらに、部署やユーザーの役割に応じて閲覧・発注・管理などの権限を設定することで、情報の安全性や業務の整合性が確保できます。
要件定義を曖昧にしたまま進めてしまうと、導入後に追加開発や見直しが必要となってコストや時間の無駄を招きかねず、注意が必要です。
基幹システムと連携させる
BtoB ECは、ERP、在庫管理、CRM、会計システムなど、既存の基幹業務システムとの連携によってその真価を発揮します。これにより、注文情報、在庫状況、取引履歴、顧客情報などを一元管理し、業務プロセスをシームレスにつなげることが可能となるのです。
例えば、CRMとの連携で過去の購買履歴をもとにリピート提案やキャンペーン配信を行ったり、ERPと連動して在庫と納期情報をリアルタイムに更新したりすることで、営業やマーケティング活動の精度が高まります。
連携機能を持たないECシステムは、後々の拡張性に限界があるため、最初の選定段階でAPIや連携実績をチェックすることが大切です。
顧客の利便性にも配慮する
システム導入時は、顧客の使いやすさについても十分な配慮が必要です。例えば、サイトの操作性やデザインが複雑すぎると利用が進まず、導入の効果が半減してしまいます。
そのため、シンプルで直感的に操作できるUIを採用するとともに、発注や納期、在庫情報がリアルタイムで確認できる機能の用意が必要です。
さらに、マニュアルの整備やチャットサポート、電話対応など、充実したサポート体制を整えると、取引先による利用の定着率と満足度が向上します。
マーケティング戦略とSEO対策を併用する
クラウド型ECや導入コストが安いECカートの場合、機能やデザインを手軽に構築できるメリットがある一方で、SEO対策の自由度が低いケースが多い点に注意が必要です。BtoB向けECサイトであっても、検索エンジンを通じて新規顧客を獲得する機会は大きいため、SEO施策を軽視すると見込み客との接点を逃しかねません。
そこで、オウンドメディアを別途立ち上げることで、以下のような対策を実施している企業が増えています。
1.豊富な情報提供で専門性をアピール
製品・サービスを紹介するだけでなく、業界動向や事例、ノウハウなどを継続的に発信することで、自社の専門性をアピールできます。検索エンジンは価値あるコンテンツを評価するため、結果的にサイトへの流入数を増やすことが期待できます。
2.ECサイトとの連携でリード育成を強化
オウンドメディアで興味を持ったユーザーを、そのままECサイトに誘導する導線を確保しておくことで、問い合わせや注文に直結させやすくなります。BtoBであっても、オンライン上で製品情報を詳しく知り、そのまま発注する顧客行動が増えており、メディアとECの連携は重要です。
3.ECシステム本体の制約をカバー
クラウド型や格安のECカートで、メタタグの最適化やページ構造の自由な編集が制限されていても、オウンドメディア側で柔軟にSEO対策を進めることで、トータルの集客効果を向上させることが可能です。
ポイントは、“ECサイト単体”だけにこだわらず、外部メディアと連携して情報発信を最適化することです。こうしたマーケティング施策を併用すれば、BtoB ECサイトの導入効果をさらに高め、新規顧客獲得や認知度向上を強力にサポートできます。
7.まとめ
今回は、BtoB ECの基本的な仕組みから市場の成長性、導入によるメリット・デメリット、システム選定、成功事例のポイントまで幅広く解説しました。
BtoB ECの導入は、業務効率の向上、コスト削減、そして売上拡大につながります。導入を成功させるには、自社の業務に合ったシステム選定、既存基幹システムとの連携、そして取引先の使いやすさを意識した設計が不可欠です。
また、営業支援ツールや社内外の受発注基盤としての活用はもちろん、企業全体の生産性向上にも大きな価値をもたらします。この記事が、BtoB EC導入の一助となれば幸いです。